清泠浦の来訪者が640%増えた — 映画1本が変えた寧越
今年第1四半期の清泠浦(チョンリョンポ)の来訪者は12万8,325人で前年比640%、端宗荘陵は8万5,120人で752%増えた。原因は2026年2月4日公開、1,691万人を集めた映画1本。船に乗るのに1〜3時間並ぶ。
江原道・寧越(ヨンウォル)にある朝鮮時代の史跡二か所で、1年のあいだに起きたことだ。
清泠浦(チョンリョンポ)の来訪者は640%、端宗荘陵(タンジョン・チャンヌン)は752%増えた。 もともとは静かな史跡めぐりの場所だった。今は清泠浦へ渡る船に乗るために1時間から3時間並び、周辺の道路が渋滞する。
原因は映画1本だ。2026年2月4日公開の『王と暮らす男』(韓国題『왕과 사는 남자』の直訳。日本公開および邦題は本稿執筆時点で未確認)である。7月時点で累計観客1,691万人、歴代観客数2位・興行収入1位を記録した作品だ。
数字でひとめ
| 項目 | 数字 | 基準 |
|---|---|---|
| 清泠浦 第1四半期の来訪者 | 1万7,336人 → 12万8,325人 | +640%(前年同期比) |
| 端宗荘陵 第1四半期の来訪者 | 9,985人 → 8万5,120人 | +752% |
| 二か所の合計 | 52万2,365人 | 2026年1月1日〜5月17日 |
| — 清泠浦 | 29万4,213人 | 同期間 |
| — 荘陵 | 22万6,152人 | 同期間 |
| 前年の年間合計 | 26万3,327人 | 5か月で約2倍 |
| 旧正月連休の1日(2月20日) | 2,006人 → 1万641人 | 5倍 |
| 原因となった作品 | 映画『王と暮らす男』 | 2026年2月4日公開 |
『王と暮らす男』とはどんな映画か
数字の原因を知ることがこの記事の出発点なので、まず作品から説明する。
チャン・ハンジュン監督の初の時代劇だ。ユ・ヘジン、パク・ジフン、ユ・ジテ、チョン・ミドが出演する。2026年2月4日に公開され、3月6日に観客1,000万人を突破し、韓国公開作としては**34本目の「千万映画」**になった。7月時点で累計1,691万人、歴代観客数2位かつ興行収入1位である。
物語は朝鮮初期を扱う。世祖(セジョ)が甥である端宗(タンジョン)から王位を奪ったあと、流刑となった端宗の暮らしと、錦城大君(クムソンデグン)による謀反事件が中心になる。韓国の観客にとっては学校で習う歴史であり、国外の観客には少し背景説明が要る話だ。
人口5,100万人の国で1,691万人という数字は、国民の3人に1人が劇場でこの映画を観たという意味になる。日本の人口に置き換えれば約4,100万人規模で、日本映画の歴代記録と比べても桁が違う。韓国映画の観客動員が「本数」ではなく「人数」で語られる理由がここにある。
清泠浦と荘陵はもともとどんな場所か
二か所とも、映画が扱ったその事件の実際の舞台である。
清泠浦は端宗が流された場所だ。三方を川に囲まれ、残る一方が崖なので、今も船に乗らなければ入れない。この地形が、映画の描いた孤立をそのまま説明している。来訪者の急増がすぐ待ち行列として現れた理由もここにある — 定員を決めているのは道路ではなく船だ。
端宗荘陵は端宗の墓である。朝鮮王陵のうち唯一ソウル・京畿圏の外にある王陵で、ユネスコ世界遺産「朝鮮王陵」40基に含まれる。
つまりこの二か所はセットではない。実際の歴史の現場であり、映画以前から史跡めぐりの客が訪れていた。ただしその規模が年間26万人ほどで、今は5か月で52万人を超えた。
月別に見ると公開曲線がそのまま出る
| 時点 | 来訪者 | そのとき何があったか |
|---|---|---|
| 2月 | 6万4,000人 | 2月4日公開・旧正月連休 |
| 3月 | 13万9,000人 | 3月6日に1,000万人突破・三一節連休 |
| 4月 | 18万4,000人 | 4月24〜26日 端宗文化祭 |
観光統計がこれほどきれいに単一の原因で説明できることは珍しい。ふつうは天候、連休、自治体のイベント、交通の改善が混ざる。ここでは公開日と曲線の起点が一致し、ヒットが大きくなるほど来訪者も一緒に増えた。
4月に頂点を打ったのは地域の祭りが重なったからだ。端宗文化祭は寧越郡が長く続けてきた行事だが、今年は映画を観た人がその時期に合わせて動いた。
スクリーンツーリズムは観光客をソウルの外へ連れ出す
韓国では、画面に映った場所を訪ねる旅行をスクリーンツーリズムと呼ぶ。今回の事例が特別に大きいだけで、現象自体は古い。
| 場所 | 作品 |
|---|---|
| 清泠浦・端宗荘陵(寧越) | 映画『王と暮らす男』(2026) |
| 聞慶セジェ オープンセット場 | 映画『王と暮らす男』 |
| 南怡島(ナミソム) | ドラマ『冬のソナタ』(2002) |
| 江陵・注文津(チュムンジン) | ドラマ『トッケビ』(2016) |
| 昌原(チャンウォン) | ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022) |
この一覧の時間幅を見てほしい。『冬のソナタ』は20年以上前の作品なのに、南怡島は今もその名前で人を集めている。一度ロケ地になると効果は長く続く。
背景に調査数字がひとつある。韓国文化観光研究院の調査で、**韓国訪問に影響した要因として韓流コンテンツを挙げた回答者が38.3%**だった。10人に4人近くが、ドラマ・映画・音楽をきっかけに韓国行きを考えたということになる。
そしてこの流れはソウルの外へ向かう。 上の一覧が全部地方だ — 寧越、聞慶、春川(南怡島)、江陵、昌原。聞慶の場合、今年の観光消費の合計が前年同期比で13.8%増えた。 来訪者数とは別にその地域でお金を使い始めたという意味なので、自治体がより重視する数字である。
韓国旅行の地図が、ソウルという一点から複数の点へと散らばりつつある。
日本ではどうなるか
日本の読者にとって、この話はまったく新しい現象ではない。むしろ日本がこの型の出発点だった。2002年放送の『冬のソナタ』が日本で火をつけ、南怡島に日本からの団体客が押し寄せたのが、韓国のスクリーンツーリズムが観光統計に初めてはっきり現れた瞬間だ。上の表で南怡島だけが20年以上前の作品なのに残っているのは、そのときの厚みがまだ効いているからである。
その前提のうえで、今回の寧越を計画に落とすとどうなるかを整理する。
| 検討項目 | 日本から見た事情 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| どこを選ぶか | 「有名ロケ地一覧」はたいてい失望を生む | 自分が実際に観た作品の場所だけを選ぶ。画面の外では平凡な場所が多く、感動は場所ではなく記憶から来る |
| 所要時間 | 東京・大阪から仁川まで約2〜2時間半。寧越・聞慶・江陵はソウルから2〜3時間 | 飛行時間が短いぶん、日程を削るのは国内移動のほうだ。 2泊3日にロケ地を1か所入れるとソウルが1日消える |
| 週末だけで行けるか | 日本発は便数が多く、金曜夜発・日曜夜帰りが成立する | ただしその日程で地方を1か所入れると、実質ソウルはゼロになる。ロケ地優先なら割り切る |
| 今の清泠浦 | 定員を決めるのは船。待ち1〜3時間の報告あり | 平日・午前の早い時間を狙う。繁忙期の週末に午後着は事実上失敗 |
| セットか実在の場所か | 聞慶セジェはセット場、注文津は実在の集落 | セット場は入場料を取って管理されている。実在の場所は人が暮らす町なので静かに歩く |
| 季節 | 雪の場面で有名な場所に夏に行くと別の場所だ | どの季節に撮られた場面かを確認するのが、この旅の実質的な準備になる |
| レンタカー | 日本は国際運転免許証(ジュネーブ条約)の発給国なので、この点は条件がよい | それでも規定は変わる。出発前に最新の条件を必ず確認する |
日本の読者に特有の落とし穴がひとつある。 「聖地」の世代差だ。冬ソナ世代にとっての南怡島と、今の視聴者にとっての注文津や寧越は、同じ「ロケ地めぐり」という言葉でもまったく別の旅になる。家族や友人と一緒に行く場合、誰の記憶に合わせた行程なのかを先に決めておかないと、片方だけが満足する日程になりやすい。
そしてこれらの数字が四半期単位の統計であることは覚えておく価値がある。作品の話題性が過ぎれば下がる。今伸びている場所を追うより、自分が好きだった作品の場所を選ぶほうが、旅としては残るものが多い。
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